「発酵デザイナー」 小倉ヒラクさん のトークイベントが、愛知県岡崎市で開催されました。小倉ヒラクさんといえば、発酵好きなら誰でも知っている有名人。発酵のスペシャリストとなった私も、ヒラクさんのマニアックでギークなところが大好きで、大ファンなのです♪
岡崎で有名な発酵食品といえば、「八丁味噌」。
今回は、その八丁味噌の老舗2社と発酵デザイナー 小倉ヒラク のコラボトークイベントだったのです。
その名も、「小倉ヒラク×八丁味噌〜岡崎というローカルが生み出す発酵の可能性〜」!
すんごく素敵なイベントで、軽く感動したくらい嬉しかったので、久々にイベントレポします(*´▽`*)
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Contents
アジアという文化圏から見た味噌を紐解く
まずは、ヒラクさんの単独トークショー。
味噌について、超マニアックな視点からあり得ない方向へと深く掘り下げていきます(萌)!
味噌には、「大豆に麹を加えて発酵させた固形調味料」という定義があるそうです。やっぱりとりあえず大豆なんですね。他の豆でも似たようなものはできるけど、やっぱ大豆。ひよこ豆とかならまあ普通の味噌ができるけど、落花生はイマイチらしい。
小豆とかひよこ豆で味噌作るのは聞いたことあるけど、落花生をセレクトする人は初めて聞きました💦 なんか、ヌルヌルして油っぽい味噌になるそうです 笑。
味噌って、「原料シンプル、味複雑」。
それは、人間がつくるのではなくいろんな微生物が関わっていて、微生物たちが作っていくものだからなんですね。
まずは、味噌がどうやってできるかの説明。
味噌を作るときにまず大豆を煮るのは、大豆に含まれるタンパク質とかの分子結合をゆるくして食べやすくするため。でも、味噌の場合は人間が食べるために食べやすくするんじゃなくって、微生物が食べやすくなるために、加熱することによって分子結合をゆるめてあげるんです。微生物っていうのは「麹」のこと。
味噌が作られる過程で、麹が食材を分解してくれるのですが、そのチョキチョキ分解された食材の成分をエサに、他の微生物達がやってきます。
要するに、麹っていうヤツは、食物を分解するだけでなく、分解することによって他のいろんな微生物を呼び寄せるっていう役割りもしているんですね。
味噌の中には、麹菌、植物性乳酸菌、酵母菌というメジャーな微生物以外にも、たくさんの種類の菌がいるんだとか!
味噌を仕込むときに原料として塩を必ず入れますが、塩の役割りとしては「生物の細胞を破壊する」ということなんです。塩を入れることで保存性が高まるということは誰でも知っている事だと思いますが、「生物の細胞を破壊する」なんていうフレーズが出るところが、なんていうか、さすがです。
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発酵と醸造
発酵 = 微生物の活動全般
醸造 = カビを使って醸すこと
みたいな?お話。
日本の醸造物に関わってくる麹は、ニホンコウジカビ(Aspergillus Oryzae アスペルギルス オリゼー)という種類の麹菌です。オリゼーはラテン語で稲という意味。アスペルギルスは、コウジカビという属性を表す名前。
コウジカビって実はいろんな種類があって、中国はクモノスカビなんていう種類の麹を使って「餅麹スタイル」でコーリャンとかの雑穀に菌をつけて麹を作るけど、日本はオリゼーを使って米とかに「ばら麹スタイル」で菌をつけます。
麹菌の種類や種麹の繁殖のさせ方によって、同じアジア圏でも国によってとか地域によって異なった発酵文化が発展してきたんですね。
麹って、タモリみたいなヤツ
ヒラクさんのトークショーは、いろんな方向に話がぴょんぴょん飛んでるように見えて最終的にまとまっているところがすごい。でも、トーク内容をレポにまとめるのがなかなか難しい💦
ということで、次はわかりやすい例えを交えて麹菌とかの特性を。
麹ってタモリみたい。
というのは、要は麹菌の機能として「他の菌を呼ぶ」というのがメインな感じだから。タモリさんって、ピンでももちろん面白いんだけど、番組の司会とかで他のゲストと絡んで盛り上げる役回りのほうがより際立って面白い。で、他のゲストのことを輝かせる能力もすごい。
そんなことから、麹ってタモリみたいなんですね。麹は単体で酵素を出して食物を分解するという機能もすごいけど、分解することによって他のいろんな微生物を呼び寄せるっていう機能がもっともっとスゲーってことなんです。
味噌をはじめとする日本の醸造物は、麹というカビをスターターにすることによって、味が複雑になるんですね。
で、もうひとつ例え。
・発酵菌 = ジョン・レノン
・酵素 = イマジン
・・・。
なかなか上手い例えですよね。
どういう事かって言うと、ジョンレノンが死んでも、ジョンが作ったイマジンという曲はずっと生きてい残っている。要するに、発酵菌が死んでも発酵菌が作った酵素は残っている。ということ。
東アジア文化圏の中でも日本は旨味先進国
発酵のカビを使うのは、世界の中でも中央アジアより東の文化圏だけなんだそう。それ以外は、使ってもチーズのまわりにちょっと飾るくらいとか。
で、日本はその中でも特に洗練された旨味の感覚が発達している国。
ヒラクさんいわく、「愛知・東海 = 旨味の首都」!
そして、豆味噌なんかの味には「大陸を感じる」のだそうです!
なんて壮大な。
なぜそんな壮大なことになるのかと言うと、その理由は東アジアの食文化の歴史を紐解いていくと分かってくるんです。
ベトナムの真ん中あたりにフエという町がありますが、そこに魚醤を主に作っている村があるそうで、なんでもそこで作られている魚醤(ニョクマム)を濾した後のオリを味噌みたいなものにしたのがあるんだそうです。で、その魚醤味噌のお味が、なんと八丁味噌のような味だったんだとか。
そこで作られているニョクマムは、搾ったりせずただ単に濾すだけのものもあれば、濾すことさえしないものもあるんだそう。それをそのまま食べると、舌でなのか感覚でなのか、醤(ひしお)を感じるのだそうです。
醤(ひしお)というのは、旨味が溜まったものともいえます。
魚醤といえば、ヒラクさんはこのトークショーの前日に私の地元である岐阜に寄って「うるか」の製造現場を視察されたそうです! 「うるか」というのは岐阜の名産品のひとつで、鮎の内臓を塩漬けにしたもの。要は鮎の魚醤みたいな感じですね。岐阜の名産品に興味をもっていただいて、嬉しい限りです。
ベトナムからなぜか岐阜に飛びましたが、続いてはミャンマー。
ミャンマーには、なんと納豆があるんです!納豆って日本だけじゃないんですね、実は。トゥナオと呼ばれるものなんですが、見た目は日本の納豆とは全然違って乾燥していてお煎餅みたいな感じです。
ヒラクさん曰く、味噌の黎明期には納豆が絡んでいるんじゃないか?ということ。いま日本で食べられている味噌や醤油なんかも、びみょーに納豆菌って入っているのだそうです。なんだか不思議~。味噌と納豆のくだりに関しては、もっともっと掘り下げたお話が聞きたかった!興味津々です。
そんなこんなで(うまく話をつなげられない人が使うやつ)、アジア諸国の色んな発酵食品の話を掘り下げていくと、日本のコウジカビってすごく繊細なんだっていうことが分かってくるんですね。
中国とか韓国とか、麹を使った発酵物をもう野ざらしみたいな状態で放置してあることが多いんだけど、それでも他の雑菌なんかにやられちゃったりせず、ちゃんと人間が食べられる発酵食になっている。それは、たとえば中国の麹は自ら大量のクエン酸を出してバリアを張ることができるからなんだそう。
それに比べ、日本では麹を作るところからすごく慎重に、他の菌が入らないように気を付けますよね。それは、日本人が綺麗好きだからとかそういうことではなくて、それくらい慎重に扱ってあげないと他の菌にやられてしまうような、繊細なカビだからなんです。
と、ここまで来てやっと八丁味噌の話に繋がってきます。
八丁味噌をはじめとする豆味噌は、愛知・岐阜・三重の東海地方のみで食べられている独特の味噌ですが、もともと日本の初期の味噌は豆味噌だったと言われています。それは中国から渡ってきた豆鼓のようなものでした。その後、日本人は中国からやってきた豆味噌に甘味を加えるということをするようになり、甘味を加えるために豆とは別に米や麦に麹菌をつけたものを豆と合わせるということをするようになりました。そしてそれが全国に広まり、日本の味噌の定番は大豆と米麹を合わせた米味噌になるのですが、なぜか東海地方だけがそれに習わず、大陸から渡ってきたままの豆味噌を食べ続けたんです。
なぜそうなったのかは謎ですが、このことから、「豆味噌に大陸を感じる」という発想がでてきたわけなんですね!
奥が深いー。
ヒラクさんのマニアックな味噌トーク。東アジアという広い視点から見た味噌、猛烈に萌えました(*´▽`*)
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まるや八丁味噌 × カクキュー × 小倉ヒラク
第二部は、老舗の八丁味噌蔵2社の方をゲストにヒラクさんとのトークセッションが行われました。
2社は両者とも、八丁味噌作りは、木桶で二夏二冬ということを絶対条件としています。
木桶で仕込むというのがどういうことか、どんな作用があるのか、ということを、これまたヒラクさんがマニアックな実験でもって説明してくれました。
ちょっと見づらいですが、味噌をそれぞれ 庭・居間・台所 に置いて、カビのはえ具合を観察じた実験の画像です。これを見ると一目瞭然、同じ味噌なのに庭→居間→台所の順番にカビのはえる量が明らかに減っているんです。それは、ヒラクさんのラボでは台所でさまざまな発酵食を作っていて、発酵菌がうようよとしているから。発酵菌が台所のいたるとことにいるから雑菌が繁殖しずらいんですね。
この実験と木桶の関係は何かというと、木桶には長年かけて住みついた発酵菌がたくさんいるということ。だから木桶で仕込むと雑菌が繁殖しづらく、且つその木桶に住みついた菌によってその木桶独特の発酵の仕方をするんです。それによって、その蔵独特の味が出て、味に深みが出るんですね。
ちなみに、佐賀県出身で幼少期から麦味噌に親しんできたヒラクさんが初めて豆味噌の味噌汁を飲んだ時、南インドのスープカレーのような味だと思ったそうです 笑。そんな風に感じるほど甘味が無いんですね、豆味噌って。
大陸の味とは
たとえば、中国の紹興酒って出来立てを飲んでもすごく不味い。5年くらいは熟成させないと美味しくありません。だけどそれに比べると、日本の発酵食ってフレッシュなものが結構多い。味噌も6ヶ月くらいで美味しいものがたくさんあるし、日本酒もそう。ようは若い発酵食が多いんですね。
それに比べ、八丁味噌をはじめとする豆味噌は長期間熟成させます。だから決して若いフレッシュな発酵食ではない。その分、味に奥行きがあってエレガントなエグみがある。
エレガントなエグみって、なんだかすごい表現だけど、めちゃくちゃ分かりやすい!そういうところも、さすがヒラクさんって感じです!
で、八丁味噌のそんなところが「大陸の味っぽい」という事なんですね。
いやー、八丁味噌について、こんな視点から掘り下げてのトークだなんて想像もしなかったです。すごいなー、すごいなー本当。
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発酵は因果関係が無い
あとは、ヒラクさんの名言集。
今までのも、全部ヒラクさんの話の内容を私なりにまとめただけなんですけどね。
「発酵というのは、因果関係を逸脱したときに起こる。単純な因果関係を超えるクリエイティビティ―なのだ。予期できないパラメーターがあり、人間の予想や合理性を超えたものが出来上がる。」
「調味料は、味その物がずっと受け継がれている資産。」
「その土地その土地の歴史が、味覚に刻み込まれている。」
「発酵というのは、人間にはできないこと。微生物たちにうまく発酵してもらうには、見守る人間が機嫌よくしていないとね。人間の力ではどうすることもできないから見守るしかない→マインドフルネス半端ない」
「発酵とは、時間をかけて良くすること。だから、待つことが大事。」
「発酵とは、その土地の記憶が受け継がれたものであり、歴史に対するリスペクトだ。」
正確ではないけど、こんなようなことを言われてました。どれもこれも、深い。いろいろ考えさせられるし、なるほどなーと思うことがいっぱい。
どんなことでも、実体験に基づくことや感覚的なことだけじゃなく、科学的な見地からしっかりと明確な着地を見せてくれるヒラクさんのトークが、大好きです!
八丁味噌の地理的表示問題も大事ですが、味噌についての本質的な話というのも、日本の発酵食文化を受け継いでいくなかですごく大切なことですね。
素敵な素敵なイベントでした(*´▽`*)
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